2023年4月9日に16年ぶりのボツワナに降り立ってからひと月以上の時間が経った。
ボツワナにこんなに長く滞在したのは大学生のとき以来だ。
日々、朝起きるたびにボツワナにいる幸せを感じ、日々の出来事に思いが溢れすぎてだんだん文章に書きまとめる余裕がなくなってしまった。
心に刻みながら、あとからでもひとつひとつのことを丁寧に文章にまとめたいと思っている。それほど、毎日が貴重だった。
今回わたしは、作家ベッシー・ヘッドのアーカイブ調査をすることを目的としていた。でも、そもそもボツワナに訪問して会いたい人に会い、様々な場所を訪れること自体が大切な魂の儀式のようなものだったと思っている。
自分の人生の中で、このように贅沢な時間を持てて心から良かったと感じるし、これから何度でもボツワナに戻ってくるのは間違いない。
ーーー
一つ一つの出来事は、本一冊分くらい(!)の文章に書きまとめることとして、先にまとめのような文章を書いてしまうのだけれど、ボツワナに来てずっと思っていたことがある。
現地でもっともお世話になったのは、アメリカ人のメアリだ。
文学研究者のメアリは、ベッシー・ヘッドに関する博士論文を書き、その後ボツワナに移住して25年以上。ボツワナ大学で英文学を教え、現在は独立して編集等のサービスを提供する会社を立ち上げている。
ベッシー・ヘッドは1986年に亡くなっていて、メアリも本人に会ったことがない。それでもボツワナにずっと滞在している。
メアリの夫氏ブルースはイギリス育ちのニュージーランド人。
歴史が専門で、南部アフリカ史だけでなく中国思想史もご専門で、以前はボツワナ大学で教えていた。
彼もまた、メアリと結婚してボツワナに30年ほど暮らしている。
ベッシー・ヘッドの古い友人トム・ホルツィンガー。
アメリカ出身だが、19歳のころにボツワナに来てベッシーと親交が深かった。
その後は各国を転々としたあとカナダ人と結婚して長年カナダに住んでいた。息子たちの独立後、2004年に再びボツワナはセロウェに戻ってきた。奥さんとは別れた。
人生の最後に、自分の好きなところで暮らしたいのだそう。まだ75歳で、非常に熱い性格で止まることのない暴走タイプの愛に溢れるひとだ。
ベッシーのもうひとりの古い友人で、ヒュー・ピアースというひとがいる。
彼はイギリス出身で、もう1967年ごろからボツワナに暮らしている。奥さんはツワナ人だ。
何が言いたいのかというと、このひとたちは皆、ボツワナという場所を選んで人生の大部分の時間を過ごしているということだ。
わざわざ、この国を選んで暮らしている。
ボツワナは英国保護領からの独立後、1967年に巨大なダイヤモンド鉱脈が発見されて以降、経済的にも政治的にも安定した国で「優等生」とまで言われており、平和で治安の良い社会を実現してきた。近年では政治経済的に陰りが見えているようだ。
南部アフリカの内陸国で、人口は258万人ほどと少なく、広大で平坦な土地が広がり昔から牧畜が人々の主要な生業であった。
街にはショッピングモールもあるし、美しいこの国に暮らすことに、大きな不自由はない。
もちろん、セロウェは田舎町で小さなところだから、東京のような大都市に暮らすのとは大きな違いがある。不便を感じることは当然かなり多い。
それでも、この国を選んで先進国からやってくるひとがいるのだ。
この土地の風景の美しさや空気の気持ちよさ。そしてのんびりした雰囲気の良さはひとを惹きつける。
メアリの夫氏ブルースに尋ねたら、不便は感じていないとのことだった。
ここにあるものに満たされているということなのかもしれない。
ーーー
ひとには、心にフィットする場所があるのだろうと思っている。
故郷というのは、何も生まれ育った場所だけを呼ぶ名前ではないんだと、わたしはいつも思っている。
生まれ育った場所とは違う、自分の魂がつながる場所。そういうところがあるのだと。
作家ベッシー・ヘッドは、南アフリカから亡命せざるを得ず、1964年にボツワナ(当時のベチュアナランド英国保護領)にやってきたひとだ。
小さな息子を抱えて貧困に苦しみ、市民権も与えられず何度も国を出ようとしたけれど、最後はここにとどまることにした。
白人と黒人の間に生まれ、アパルトヘイトの南アフリカでも帰るところがなく、ボツワナを故郷として選び取った。
自伝的小説"A Question of Power"の最後はこの文章で締めくくられている。
ベッシー自身がボツワナという国を自分の故郷として選び取ったということをこの小説全体を通じて語っている。
それは、ベッシーに人生を変えられてしまったメアリも同じかもしれない。ブルースやヒュー・ピアースも同じかもしれない。
ボツワナにいる間、わたしもまた自分がいるべき場所にいるとずっと感じていた。
何の疑問もなかった。
もちろん、日本には家族や大切なひとたちがいる。日本はやっぱり便利だ。
でも、自分の魂の健康や幸せのために、これほどしっくりくる場所はないと確信していた。
わたしもまた、何らかの形でボツワナを選び取ったひとりなのだろう。
その昔、初めて訪れたアフリカの国を。
ーーーー
雨季の終わり、冬の始まりに訪れたボツワナは、ずっと雨が降らなかった。
わたしが降り立った日と、去った日。
この二日だけ、雨雲が集まり雨が降った。
ボツワナにとって、雨は恵みだ。
ーーーー
さて。
わたしは昨日ボツワナを去り、いまは昔暮らしたジンバブエにいる。
明日は出かけるが、それ以外にとくに忙しい予定を詰めることもなく、元同僚に会いながらやっと心がほぐれていくゆったりとした時間を過ごしている。
文章や動画にアウトプットしていくのがとても贅沢に感じられて幸せだ。
なので、この記事はダイジェスト。一部の写真だけ載せていきます。
セロウェにてアーカイブ調査の日々

ベッシーの友人トム・ホルツィンガー氏と

スワネンヒルてっぺんの柱状節理(Clumnar Joint)

ヒュー・ピアース氏と奥さんのマツェラ・ピアースさん

1960年代にベッシーが参加したBamangwato Development Associationの跡地。この作られた農村をモデルに小説When Rain Clouds Gatherを執筆した

廃村の冒険後、トム・ホルツィンガーと

セロウェのミュージアムの前庭

わたしのバケツ・リストのひとつ「オカバンゴ・デルタでモコロ(カヌー)に乗って夕陽を見る」を叶えた

ボツワナでいちばん高いビルiTower



南アフリカの作家ベッシー・ヘッド(1937-1986)の紹介をライフワークとしています。
(詳しくはこちら)
■作品の翻訳出版に向けて奔走しています。
■作家ベッシー・ヘッドについてnoteで発信しています。
⇒ note「ベッシー・ヘッドとアフリカと」
⇒ note「雨雲のタイプライター|ベッシー・ヘッドの言葉たち」
==
■音声配信『雨雲ラジオ』
stand.fm
Spotify
Apple podcast
■YouTube hitomi | 南アフリカ作家ベッシー・ヘッド研究
■ Amelia Oriental Dance (Facebookpage)
■ Rupurara Moonアフリカンビーズ&クラフト



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ボツワナにこんなに長く滞在したのは大学生のとき以来だ。
日々、朝起きるたびにボツワナにいる幸せを感じ、日々の出来事に思いが溢れすぎてだんだん文章に書きまとめる余裕がなくなってしまった。
心に刻みながら、あとからでもひとつひとつのことを丁寧に文章にまとめたいと思っている。それほど、毎日が貴重だった。
今回わたしは、作家ベッシー・ヘッドのアーカイブ調査をすることを目的としていた。でも、そもそもボツワナに訪問して会いたい人に会い、様々な場所を訪れること自体が大切な魂の儀式のようなものだったと思っている。
自分の人生の中で、このように贅沢な時間を持てて心から良かったと感じるし、これから何度でもボツワナに戻ってくるのは間違いない。
ーーー
一つ一つの出来事は、本一冊分くらい(!)の文章に書きまとめることとして、先にまとめのような文章を書いてしまうのだけれど、ボツワナに来てずっと思っていたことがある。
現地でもっともお世話になったのは、アメリカ人のメアリだ。
文学研究者のメアリは、ベッシー・ヘッドに関する博士論文を書き、その後ボツワナに移住して25年以上。ボツワナ大学で英文学を教え、現在は独立して編集等のサービスを提供する会社を立ち上げている。
ベッシー・ヘッドは1986年に亡くなっていて、メアリも本人に会ったことがない。それでもボツワナにずっと滞在している。
メアリの夫氏ブルースはイギリス育ちのニュージーランド人。
歴史が専門で、南部アフリカ史だけでなく中国思想史もご専門で、以前はボツワナ大学で教えていた。
彼もまた、メアリと結婚してボツワナに30年ほど暮らしている。
ベッシー・ヘッドの古い友人トム・ホルツィンガー。
アメリカ出身だが、19歳のころにボツワナに来てベッシーと親交が深かった。
その後は各国を転々としたあとカナダ人と結婚して長年カナダに住んでいた。息子たちの独立後、2004年に再びボツワナはセロウェに戻ってきた。奥さんとは別れた。
人生の最後に、自分の好きなところで暮らしたいのだそう。まだ75歳で、非常に熱い性格で止まることのない暴走タイプの愛に溢れるひとだ。
ベッシーのもうひとりの古い友人で、ヒュー・ピアースというひとがいる。
彼はイギリス出身で、もう1967年ごろからボツワナに暮らしている。奥さんはツワナ人だ。
何が言いたいのかというと、このひとたちは皆、ボツワナという場所を選んで人生の大部分の時間を過ごしているということだ。
わざわざ、この国を選んで暮らしている。
ボツワナは英国保護領からの独立後、1967年に巨大なダイヤモンド鉱脈が発見されて以降、経済的にも政治的にも安定した国で「優等生」とまで言われており、平和で治安の良い社会を実現してきた。近年では政治経済的に陰りが見えているようだ。
南部アフリカの内陸国で、人口は258万人ほどと少なく、広大で平坦な土地が広がり昔から牧畜が人々の主要な生業であった。
街にはショッピングモールもあるし、美しいこの国に暮らすことに、大きな不自由はない。
もちろん、セロウェは田舎町で小さなところだから、東京のような大都市に暮らすのとは大きな違いがある。不便を感じることは当然かなり多い。
それでも、この国を選んで先進国からやってくるひとがいるのだ。
この土地の風景の美しさや空気の気持ちよさ。そしてのんびりした雰囲気の良さはひとを惹きつける。
メアリの夫氏ブルースに尋ねたら、不便は感じていないとのことだった。
ここにあるものに満たされているということなのかもしれない。
ーーー
ひとには、心にフィットする場所があるのだろうと思っている。
故郷というのは、何も生まれ育った場所だけを呼ぶ名前ではないんだと、わたしはいつも思っている。
生まれ育った場所とは違う、自分の魂がつながる場所。そういうところがあるのだと。
作家ベッシー・ヘッドは、南アフリカから亡命せざるを得ず、1964年にボツワナ(当時のベチュアナランド英国保護領)にやってきたひとだ。
小さな息子を抱えて貧困に苦しみ、市民権も与えられず何度も国を出ようとしたけれど、最後はここにとどまることにした。
白人と黒人の間に生まれ、アパルトヘイトの南アフリカでも帰るところがなく、ボツワナを故郷として選び取った。
自伝的小説"A Question of Power"の最後はこの文章で締めくくられている。
As she fell asleep, she placed one soft hand over her land. It was a gesture of belonging
眠りにおちながら、彼女は片方の手を自分の土地にそっと置いた。それは、帰属の仕草だった。
ベッシー自身がボツワナという国を自分の故郷として選び取ったということをこの小説全体を通じて語っている。
それは、ベッシーに人生を変えられてしまったメアリも同じかもしれない。ブルースやヒュー・ピアースも同じかもしれない。
ボツワナにいる間、わたしもまた自分がいるべき場所にいるとずっと感じていた。
何の疑問もなかった。
もちろん、日本には家族や大切なひとたちがいる。日本はやっぱり便利だ。
でも、自分の魂の健康や幸せのために、これほどしっくりくる場所はないと確信していた。
わたしもまた、何らかの形でボツワナを選び取ったひとりなのだろう。
その昔、初めて訪れたアフリカの国を。
ーーーー
雨季の終わり、冬の始まりに訪れたボツワナは、ずっと雨が降らなかった。
わたしが降り立った日と、去った日。
この二日だけ、雨雲が集まり雨が降った。
ボツワナにとって、雨は恵みだ。
ーーーー
さて。
わたしは昨日ボツワナを去り、いまは昔暮らしたジンバブエにいる。
明日は出かけるが、それ以外にとくに忙しい予定を詰めることもなく、元同僚に会いながらやっと心がほぐれていくゆったりとした時間を過ごしている。
文章や動画にアウトプットしていくのがとても贅沢に感じられて幸せだ。
なので、この記事はダイジェスト。一部の写真だけ載せていきます。
セロウェにてアーカイブ調査の日々

ベッシーの友人トム・ホルツィンガー氏と

スワネンヒルてっぺんの柱状節理(Clumnar Joint)

ヒュー・ピアース氏と奥さんのマツェラ・ピアースさん

1960年代にベッシーが参加したBamangwato Development Associationの跡地。この作られた農村をモデルに小説When Rain Clouds Gatherを執筆した

廃村の冒険後、トム・ホルツィンガーと

セロウェのミュージアムの前庭

わたしのバケツ・リストのひとつ「オカバンゴ・デルタでモコロ(カヌー)に乗って夕陽を見る」を叶えた

ボツワナでいちばん高いビルiTower



南アフリカの作家ベッシー・ヘッド(1937-1986)の紹介をライフワークとしています。
(詳しくはこちら)
■作品の翻訳出版に向けて奔走しています。
■作家ベッシー・ヘッドについてnoteで発信しています。
⇒ note「ベッシー・ヘッドとアフリカと」
⇒ note「雨雲のタイプライター|ベッシー・ヘッドの言葉たち」
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■音声配信『雨雲ラジオ』
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■ Rupurara Moonアフリカンビーズ&クラフト

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