作家ベッシー・ヘッドの作品の翻訳全文チェック作業のペースを速めている。
訳文は全部あるのだが、もう何度も本当に全部を訳しなおしている。

この作家の比較的初期の作品を訳しているのだが、彼女の良く知られている名作の中でもかなりわかりやすくプロットがシンプルなこの作品でも、文章ひとつひとつが濃い。

言葉のひとつに深い意味がたくさん入っているので、注意深くそれに心と耳を澄ませ、日本語に落とし込んでいる。難しく考えすぎるとリズムや感触を失うので、丁寧に。


*  *

最近久しぶりに、アレクサンダー・マコール・スミスの小説を原文で読んでいる。
フィクションはたまにしか読まないのだが。
この人のボツワナを舞台にした小説は面白いので、今度はエディンバラの小説を読んでいる。
まだ読み終わっていないのだけれど、ベッシー作品との大きな違いに気づく。

マコール・スミスは軽快で面白いのだ。

物語としてサクサク読める。


対照的に、ベッシー・ヘッドは人物や風景の描写がものすごく深い。
しかも、ひとりひとりの人物に対して、そのひとの内面の独白(ただしもちろん三人称)が二ページくらい続くのはざらだ。

主人公でも、ベストフレンド役でも、悪役でも。
とにかく、登場人物のそれぞれの心の深いところまで内面を描き切る。
そして、その内面の独白が、南アフリカの社会やボツワナの社会を鋭く浮き彫りにしていく。
社会の流れの中で、個人がどのようなパーソナリティを持ち生きているのか。

その描き方があまりにも深く、だからこそひとはベッシー作品を読んで深く共感し、自分を重ね合わせてしまうのだろう。

お世話になっているベッシー・ヘッド研究者のひとりが、「彼女はひとを愛しているということがよくわかる」と言った。
それはまさにこのことなんだと思う。

主人公でも悪役でも、皆が生きていてそれぞれに心の深いところに何かを抱えているのだ。
だれもがパーフェクトではないのだ。

そして、ひとつひとつの言葉にまるで濃く深い水のような色が載せられ、そのまま鋭く社会を切り取っていく。


それから、ベッシー作品が秀逸なのは風景の描写の美しさにも表れている。

彼女自身が、あれほど苦しい思いをしながらも、ボツワナという国と大地に深い思い入れを持っていたことが良くわかる。

冷たい風の吹く六月も、砂嵐や突風の吹く八月や九月を好きな者は誰もいなかった。さらに、雨が降るか降らないか、常に暑くて生きていけないような夏も、人々に嫌われていた。しかし、七月は、まるで深い青い海の底に住んでいるような、冬が地球にガラスの青い光の膜を張ったような、そんな季節だった。

ボツワナでは、雲ひとつない砂漠の空がない日はなかった。しかし、七月の太陽の光は、深く青い布のような雲に覆われ、フィルターを通した光は、すべてを艶やかで柔らかく輝かせる。神秘的な青い霧が、一日中、低く立ち込める雲のように一日中地平線にかかり、日が暮れると乾いた方へと曲がりくねった小道をたどっていく。
さて。

今日は翻訳チェックが121/183ページまで。

ここは、物語が大きく展開することはないのだが、アパルトヘイトを生きてきた青年の苦しみ、憎しみ、戸惑いと、伝統的な部族主義の圧力、そこから逃れてきたボツワナの一転した生き方について延々と書かれているくだりである。

このシーンは、もっとも印象的であり、物語の肝となるところでもあり、作家ベッシー・ヘッド自身の独白でもあるのではないかと思っている。

(ちなみに、わたしはいつもここで泣く)

いずれ出版するものなのでネタバレになるから詳しいことが書けないのが残念だけれど、こうして一文一文に深く向き合っていることは何よりも贅沢だなと感じている。


*  *

ベッシー・ヘッド作品からの引用はこちら




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南アフリカの作家ベッシー・ヘッド(1937-1986)の紹介をライフワークとしています。
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