明け方、悪夢を見た

悪夢と言っていいのかわからないけれど、
ショッキングな映像のある夢だ

夢については、たまに印象的だったら
ノートに書き留めることはあるけれど
悪夢について書くことはない

でも、これは書かなくてはいけないのではと思う

だから書くことにする


今夜もまた、仕事後に
作家ベッシー・ヘッドの作品の翻訳全文見直しに
時間を割いている

そして、はっとした

ようやっと、悪夢のイメージが何からきているのかが
わかったのだ


作品は、1960年代のボツワナ

アパルトヘイトで傷つき、
流された血と非人間的なものを散々見てきた
ジャーナリストの青年は
亡命した先のボツワナの村に行き着く

そこで、ある老女との会話で
優しい顔をした青年は
内面の激しい憎しみと混乱を初めて
表に出すのだ

そのシーンはこうだ




「信仰とは、どういうことでしょう」興味ありげに、Mは尋ねた。

「それは人生を理解するということよ」老女は優しく言った。

しばらく彼女を見ていたMは、肌の黒い長い片腕をテーブルの上に置き、その肌と同じように真っ黒なセーターの袖を捲り上げた。

「つまり、これも、ということですか」彼は静かに言った。「僕が誰だかわかりますか?Mです。黒ん坊(Black Dog)の。そうやって僕は人生に翻弄されてきた。僕にとって人生は拷問や苦痛しかなくて理解したいものなんてない」

そこにはむしろ、拷問や苦痛以上のものがあった。計り知れない裏切りと、荒涼とした地獄の中では、愛や尊敬の言動すべてが、地獄の住人たちに悪意を持った牙を向けられることで報いられ、それは自分が牙をむく者たちと自分自身との間に静寂の厚い壁を作り上げざるを得なくなるまで続くのであった。


この突然の激しい内面の露呈に
驚きながらも、老女は心の温かさで受け入れる

アパルトヘイトを生きのびた人間と、
ボツワナの村で、悲劇的な生き方をしてきた老女

このコントラストが当時のアフリカをよく表している



昨日、この箇所を翻訳していて涙が溢れそうになったのだが、
その溢れそうな涙は、さらに止まらぬ流れとなって
今夜のわたしを捉えてしまった


明け方、見たのはアフリカ人の少年の夢だ
実際には長い物語のワンシーンだったけれど
この強烈なシーンだけ書くことにする


まるでユニセフの広告に出てきそうな
大きな潤んだ哀しげな瞳の黒い肌の少年

今思うとこれは、小説の中の青年Mだったのかもしれない

彼の心の悲しみが、少年の哀しげな顔と重なる

少年は、巨大なテントで作られた
簡易診療所の中に置かれたベッドに寝ていて
片方の腕をだらりとしながら
横を向いてわたしを哀しげな瞳で見つめている

その腕には、肘から下に巨大な傷があり
傷口からあまりにも大きな黒い蜘蛛の足が伸び、
少年の黒い肌の腕に絡みついているのだった

蜘蛛の足は大きく太く
一本一本が親指ほどの太さもある

絡みついた蜘蛛の足はあまりにショッキングで、
恐ろしく、悲しく
取り返しのつかない何かを表しているようで、
わたしは涙が止まらなかった

少年を助けられない自分の無力さと、
受け止めきれない少年の哀しみの中で




そして、明け方に目が覚めた


少年は、小説の中のMの姿

その黒い腕は、テーブルに置かれた彼の腕
蜘蛛の足は、
老女を前に、
内面の憎しみをあらわにした彼の苦しみ

さらに言うと、この小説を書いた
作家ベッシー・ヘッドの姿も重なる
彼女こそが、アパルトヘイト下の南アフリカから
ボツワナへと孤独な亡命をしたひとだったから

流された血や、痛みとともに生きてきたひとだったから


イメージとしては、
もののけ姫のアシタカが、
祟り神の呪いを腕に受ける感じだろうか

夢の中では、
黒い足が立体的に絡みついていた


わたしの中で強烈な映像となって現れたこの光景

ショッキングだけれど、
あの夢の中のアフリカの少年の
哀しみに潤んだ瞳を、
腕に絡みついたグロテスクな蜘蛛の足の呪いを

忘れないでおこうと思う

これこそが、
涙が出るほどの美しさとともに
ベッシーが小説に封じ込めた
強い思いだったと思うから



はぁ

ひとしきり泣いて
ひとしきり梅酒ソーダを呑んだので

今日はもう休みます

小説の仕上がりを、
出版が実現されるのを、
どうか見守っていてください


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