いつも、千石の八百(はっぴゃく)コーヒー店に行くと、
難しい顔をして分厚い原稿の束をテーブルに広げ
コーヒーを飲んでいたそのひと。

台湾文学翻訳家の天野健太郎さん。

いつも難しい顔をして長い時間原稿に向かっていて、
大きなため息をついたりして気難しそうな雰囲気を出していたけれど、
実はお話好きなところがとても好きだった。

髪の毛がバサッとのびていて
ちょっと丸顔(笑)で、皮肉っぽい表情で、
しゃべりだすと、率直な物言いが特徴的だった。
回り道しない、「賢いひと」のシャープさ。

それは、彼の書く文章にも表れていた。

とても美しくて、こびなくて、率直でまっすぐな日本語。


もう何年も前から、彼とはよく八百コーヒー店で遭遇した。

いつも仕事がひと段落つくと、
マスターや常連のみんなと
おしゃべりをしたそうな顔をしていたのを、わたしは知っている。

翻訳のお話をたくさんたくさん聞かせてもらったし、
彼から教わることはいくらでもあった。

いちばんは、もちろん作家ベッシー・ヘッドの翻訳についてだ。

わたしは、大学生のころに出会い、以来ずっと追いかけてきた
南アフリカの作家ベッシー・ヘッドの作品の翻訳をしたくて
その話をずっと天野さんに相談していた。

シノプシスも見てくれたし、たくさんアドバイスをくれた。

わたしの翻訳出版はまだ実現していないけれど、
そのことをわたしは心から感謝している。


天野さんが翻訳された名作 呉明益氏の『歩道橋の魔術師』を、
わたしは三年前に入院中の病室で読んだことを覚えている。

少し怖い話だったけれど、
たったひとりの病室で読んだ夜、
何故だか温かい感じがしたのを良く覚えている。

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最後に会ったのは、やっぱり八百コーヒー店だった。
(というか、八百でしか会っていない)

インスタに写真が残っているから、たぶんこの日。
8月12日だったと思う。

八百に行くと、いつものように付箋をたくさん貼った原稿を広げた天野さんがいた。

そこにたまたま、初めてお会いする台湾から来られたコーヒーマニアの方がいらした。

その方は片言の英語だったけれど、
そこに偶然居合わせた台湾ご専門の天野さんが
その方と台湾語(と呼ぶのが正確かはともかく)でお話しておられた。

あの日、天野さんは写真に写っていないけれど、
同じ空間に彼がいる。




2018年11月12日、天野さんは47歳で亡くなられた。

わたしがそれを知ったのは、Twitterを通してだった。

余りのことに驚き、信じることが出来なかった。
今でも、心がふわふわしている。

さよならなんて言えないんだ。



今月、天野健太郎さん翻訳の呉明益氏『自転車泥棒』が出版されたばかりという。

まだ読んでいなかったので、Amazonを開いてみた。

彼の名で検索するとたくさん出てくる書籍たち。

そのほとんどのタイトルや原稿を、
わたしは八百コーヒー店で目にしている。

彼を見かけるたびに、いまはどんな本を翻訳しているのか
いつも訊いていたから。
彼の話を聴くのが好きだったから。


まだ、イベントや新しい翻訳のお仕事も決まっていたのに、
とても急なことだったそうだ。

本人がきっといちばん驚いているのかもしれない。


まだ、彼の不在を信じていない自分がいるけれど、
ただただ、生きている者はこの世を去ったひとたちの
温かい思い出を胸に、
しっかりと「今」を味わい、生きていくしかない。

本当にありがとう、天野さん。

ありがとう。
すごく悲しいよ。
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