今日、facebookで、お友だちの近況にちょっとおふざけっぽくコメントしたことば。

「○○ちゃんがお勉強を頑張って今度のテストで一番になったらあのショウウィンドウのドレス、お母さんが買ってあげる」「ホント?約束よ」

・・・という謎の劇のセリフ。

このシチュエーションは、わたくしの心のなかで大切にしている小説のある一場面に由来する。


またか、と思う方もおられるかもしれないけれど、ジンバブエ出身の作家ノジポ・マライレの『ゼンゼレへの手紙』だ。

これは、アメリカに留学している娘ゼンゼレへ宛てた母シリの手紙という形をとっていて、全編、シリの語りだけで構成されている。

生きること、ジンバブエの歴史のこと、女性として生きること、などなど。
(詳しくはアマゾンのレビューを見て。私が書いたものがあるので)

ゼンゼレへの手紙
ゼンゼレへの手紙J.ノジポ マライレ J.Nozipo Maraire

翔泳社 1998-07
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ともかくこの本は、本当に美しくて、わたしは2000年当時、エディンバラに留学するときに持っていた数少ない日本語の本のひとつだ。

この手の文学はちょっと残念な翻訳になっているものも少なくないのだけれど(毒)、この訳はとてもうつくしい。
もちろん、原作もとてもうつくしい。

何度読んでも、たくさんの教えにあふれていて、愛情にあふれていて、涙がでそうになる。



その中で、ジンバブエの激しい独立闘争時代に女性ゲリラ兵として戦ったティナオというひとの思い出話がある。
彼女が、どうしてゲリラ闘争に加わったかを、シリに語るところだ。


「試験で頑張ったら、なんでも好きなものを買ってくれるって、お父さんが約束したの。でも、私が中学二年(フォーム・ツー)になる前の年に、暴漢に襲われて死んでしまった。教育がわたしたちを解放するカギになるって、お父さんは固く信じていた。

(中略)

わたしが欲しかったのはフォース・ストリートのヨーロッパ人の店で見かけたドレスだった。(中略)あのドレスのために猛勉強したの。(中略)そんなふうにして、あのドレスはシンボルになったの、わたしの進歩と、決意と、お父さんが私の将来に託した夢との。あのドレスはわたしたちの大切な希望になったの。
ついに成績が発表になった。
お母さんの誇らしげなことったらなかった!わたしがクラスでいちばんになったことが信じられないみたいだった。

(中略)

店の中に入ったことは一度もなかったけど、思い切って入っていったの。鼻の高い、ヨーロッパ人の女の人が近づいてきた。
『悪いけど、ここには仕事はないわよ』彼女はきっぱり言って、手で追い払うようなしぐさをしたの。

そしたら、母がバッグのなかから、くしゃくしゃになったお札の束を取り出して広げて、それからコインを包んであったハンカチの結び目をほどきはじめたの。母はお金を差し出して、訛りが強いけれどやさしい口調で言ったわ、『どうぞ、わたしの子供のために・・・あのピンクのドレスを』って。
 その女の人の鼻筋はまた一段と細くなって、先は刀のように光っているみたいだった。
『ここじゃ黒人には売らないのよ。アフリカ人の店に行きなさい』

(中略)

『早く出て行って!わたしたちの国を滅ぼすのはあんたがたのその強情な図々しさなのよ!出てって!汚い黒ん坊の金なんかいるもんか!』女は金切り声をあげた。

コインが部屋中に転がってけたたましい音を立てたわ。その音がいまでも耳に残っている。母が膝をついて、コインをかき集めるのを、わたしは嫌悪感を持って眺めていた。わたしは入ってきたときの場所から一歩も動かなかった。ただ代わる代わる眺めていただけ、ドレスと、お札とコインを胸に拾い集めている母と、レジの向こうで顔をしかめている白人の女をね。私の眼はレンズのようにその場のすべてをとらえていた。

その光景は、一枚の写真になって私の頭に焼きついた。その写真を胸に抱いて、わたしはその夜、何も言わずに、ブッシュに潜り込んで、フリーダム・ファイターに加わったのよ。

(中略)

もう、あのドレスを買いたいとは思わなかった。あのドレスでも、ほかのものでも、自分の汗の結晶が欲しかっただけなの。闘争の経験を通して、わたしの野心は小さな一枚の服を越えて、国全体の問題に広がっていたのね。」



ジンバブエの独立までの解放闘争のなかで、どれほどたくさんの血が流され、たくさんのひとの人生が変わっていったことだろうと思う。

この物語のティナオは、勇敢なゲリラ兵で、ローデシア軍の司令官の家にメイドとして潜り込むスパイになる。
その話は痛快だが、この国だけでなく世界中の「植民地主義」や「人種主義」が抱える根深い悲しさがあふれている。

この物語には、そんなたくさんのドラマや、うつくしい物語がつまっている。

いつ、どのページを読んでも。


わたしがこのジンバブエという国に実際に暮らすことになったのは、この本と出会ってからずいぶん後の2005年のことだった。

まさにこの小説の舞台となった国に暮らすなんてほんとうに素晴らしいめぐりあわせだったのだなと思う。


わたしのジンバブエ赴任を後押ししてくれたのも、たくさんの扉を開いてくれたのも、じつはこの小説だったのだから。

なんてことを、一枚のピンクのドレスということから思い出した。



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